攻略本の作り方(1)/攻略本の作り方以前

 今、ゲーム業界に行きたい人というのはどの位いるのでしょうか?
この文章を読もうというあなたは、多分少なからずゲーム業界に興味を持っているのではないのでしょうか。
あなたが雑誌やインターネットなどから窺い知ることのできるゲーム業界のイメージというと、ヒットゲームの華やかなイメージがありつつ業界残酷物語が面白おかしく語られたり、ゲームが売れなくなったという声が大きくなりつつ新たなゲーム機戦争が始まりつつある、そんな色々なイメージでしょう。
確かにゲーム業界は以前よりは出せば儲かるという状況では無いことは確かです。
ですがまだ急に市場が崩壊するというものでもありません。
ゲームが好きで好きで堪らないあなたが志すには十分な受け皿であるでしょう。

そんな中で自分は、今年の始めまでの10年間ゲーム業界の末席に籍を置き、一旦ゲーム業界から離れ、今またゲーム業界に戻ってきた訳です。私はこれからゲーム業界に入ろうとしているあなたにとってはライバルですね。

そういう意味でこれから書くことは自分の手の内を明かす事になる訳で、自分に不利な面もあるんですが、優秀なあなたが以下の文章を読んでゲーム業界に入ってきて、迷走するゲーム業界に活を入れてくれれば、再びゲーム業界に籍を置いている自分にも利益があるってもんです。


ゲームをめぐる仕事


さて、あなたがゲーム業界に入りたいとして、ゲーム会社でどんな仕事をしたいと思っているのでしょうか?
ゲーム業界でバリバリ経理をやりたいんだ!というあなたは素晴らしい。ぜひスキルを磨いてゲーム業界に入ってきて頂きたいものです。

そうでないあなた。あなたがやりたい仕事は「開発」ではないですか?

そう、開発はゲーム業界の華。ゲームに魅入られた人間なら多かれ少なかれゲームを作ってみたいと思うものでしょう。
だったら、どーんと頑張ってみてはいかがでしょう?人間、夢に向かって進むのが一番パワーが出せるものです。

とは言うものの…、と躊躇しているあなた。理由は「仕事がきつそう」?
何を言ってるんですか。世の中にはきつい仕事なんていくらでも転がってます。どうせきつい事をやるなら好きな事できつい目にあう方が幸せですよ。
そして「開発」といっても、企画から進捗管理から、およそ会社の仕事と言われるデスクワークのほとんどのパターンの業務があります。別にアイディアマンだけが開発に入れるという訳でもありません。

しかしながら、世の中には定員というものもありまして、希望した部署に必ず入れるというものでも無い訳でして。
上にかいた事というのは漠然とゲーム業界に憧れる高校生の方には有効でも、来年には就職活動というあなたにとっては切実さの足りない言葉ではあるかもしれません。

そんなあなたの為に一つお教えしたい職種があります。
攻略本を作るというのはどうでしょうか?

私はゲーム会社で5年間攻略本の仕事に関わってきましたが、その中で感じたのは、攻略本を作るというのは下手に開発に関わるよりもゲームに対する愛情を発揮できる仕事だということです。
しかも、ゲーム作りの一番大変なところは人にお任せして、自分はプレイしまくり。しかもデバッガーみたいなしらみつぶしプレイもしなくてOK!
どうです?攻略本の仕事というのも案外良さそうではないでしょうか?

これから私は自分の体験してきた攻略本をめぐる仕事をお話していきますが、あなたがこの攻略本作りという仕事をより具体的にイメージできる様になればと思っています。



攻略本を作る二つの視点


私は攻略本を作る仕事に携わっていましたが、出版社にいたわけではありません。私がいたのはゲーム会社です。

普通みなさんがゲーム攻略本と聞いて真っ先に思い浮かべるのが出版社だと思いますが、ゲームの攻略本を作る作業の中にはゲーム会社がやる作業もあります。
たとえばゲームの仕様説明や、サンプルROMの貸し出し、ゲーム画面や設定資料集などの素材提供など、こうした作業をゲーム会社がやる訳です。それを元にゲームを紹介し攻略記事を書いて本にまとめるのが出版社の作業となります。

あなたが攻略本の仕事に就きたいと思った場合、どちらの立場に立って作業をしたいのか考えてみる余地があります。

どちらの立場に立っても攻略本が売れて欲しいという点では同じです。出版社は直接的な売上、ゲーム会社では定価の何%かのロイヤリティという形でお金が入ってきます。ビジネスですのでお金が入らないことにはお話になりません。

しかしながら、ゲーム会社の視点から見ると攻略本にはもう一つの側面があります。これがパブリシティという考え方です。パブリシティと言っても何のことかパッと判らないかもしれませんが、一種の広告のようなものです。

たとえばファミ通を例に説明してみます。
ファミ通の裏表紙には必ずゲームの広告が出ています。これはいわゆる広告なので、ゲーム会社が紙面を買って自社のゲームを売るために消費者に向かってアピールする訳です。この構図というのは誰でもお判りかと思います。
それに対して、雑誌中央にあるファミ通いちご組の広告はどうでしょう?これはあくまでもエンターブレインから出版される攻略本の広告です。
ですがいちご組を読んだあなたは、その攻略本が取り上げているゲームの印象が非常に強く残っているのではないでしょうか?いちご組の広告は顕著な例なのですが、このように第三者によってアピールをする手法がパブリシティです。

広告が企業の商品をアピールするという構図は、あまりにも消費者も慣れすぎてしまい「見えてしまっている」ものですが、パブリシティという手法はまあまあ有効であるというところがあります。
つまり攻略本が出るということは、そのゲームにとっても宣伝になるということなのです。
しかも広告はお金がでるばかりですがうまくいけば攻略本は収入にもなります。
そういう意味でゲーム会社にとって攻略本が出るというというのはかなり美味しい事なのです。

とは言うものの良いことずくめという訳ではなくて、出版社としてはただで宣伝する余裕がある訳もないですから黙っていても売れるビッグタイトルの攻略本を独占的に出したがりますし、ゲーム会社が攻略本を出したいタイトルを出してくれるという訳にもいきません。それこそ広告ではないですからね。
そこにゲーム会社と出版社のせめぎあいも生まれたりするわけです。