攻略本の作り方(4)/下ごしらえの方法

プロデューサーの仕事とは何なのか?

そろそろ実際の「ゲーム会社が行う攻略本作りの作業」へと話を進めましょう。

前回までの話を読んで具体的な話が出てこないので
「このオッサンは一体何の仕事をしていた訳?」
と思われた方もいるのではないでしょうか。
私がしていた仕事は基本的には2つ。「この攻略本作成を会社の仕事として承認してもらう為の事務手続き」と「出版社・編集プロダクションとゲーム開発者がうまくコミュニケーションして良い攻略本が作れるようなバックアップ」です。事務手続きの方は前お話をした申請書作りとか売上の計上とかいわゆるデスクワークで、私は大の苦手ではありましたが本当はどうってことの無い仕事です。でもここがきちんとできないと怒られちゃいますので、しっかりやってくださいね。
そしてバックアップの方が私の仕事の華の部分でして、プロデューサー業と言えば格好よいですがよろず調整役です。ですがこれが楽しい仕事なんですよ。

バックアップといっても何をするやら判らないと思いますが、セオリーとしては
「作業前の打ち合わせ、作業中の素材集め、作業後のチェック」
をすることになります。そこからのアレンジは人それぞれかと。

作業前の打ち合わせ
これは攻略本を作り出す前に、どんな内容の攻略本をいつ頃に発売するのか、そしてそのためにはどんな素材と作業が必要か打ち合わせをする訳です。まあどんな仕事でも基本です。

作業中の素材集め
攻略本を作る為には素材が必要となります。基本的にこれらの素材はゲーム制作用のデータを転用したりしますが、攻略本用に新たにデータを作ったり整形しなおしたりするケースもあります。その攻略本の売りになりますので出版社としては新たな画像とか欲しがるものなのです。また打ち合わせの時に気が付かなかった必要素材とかも出てくるので、色々と手配が必要になります。

作業後のチェック
厳密に言うと作業後ではないのですが、原稿その他が出来上がったら印刷所に入れる前に何度もチェックを行います。いわゆる校正というやつです。開発が全部見てくれる場合もあったりしますが、そういう場合だったとしても、基本的には右手にコントローラー、左手に資料、で全部チェックします。大体修羅場になりますね。

こうした作業を行っていくのが基本で、時と場合とあなたの創意工夫で色々とアレンジされていくわけです。


前哨戦開始

作業前の打ち合わせというのはどんな仕事でも基本なので、これをミスると攻略本作りはうまくいきません。十分準備をして打ち合わせに臨むべきです。以下に「発売前のゲームの攻略本を作りたいという話が出版社から来た」という一般的なケースにおける、私の経験則やら先輩の教えを元にした前哨戦の戦い方をお教えしましょう。

まず出版社からあるゲームの攻略本を作りたいという話が出てきます。大抵は出版社の担当編集者から電話で来るでしょう。このときに企画書をもらえるようお願いしましょう。この段階では出版社の方でも細かいことは決まっていないことがほとんどですので、ワープロで作ったA4用紙1枚くらいのものでかまいません。ここで必要なのは大まかな内容、発売日、ページ数、販売部数、価格、ロイヤリティ(出版社の売上の何パーセントをもらえるのか)が書いてあればOKです。それぞれのデータは仮のものでも構いません。
とりあえずあなたは企画書を見て、どんな攻略本を作りたいのか把握しましょう。発売日すぐに発売するお手軽攻略本なのか、完全攻略のマニアック攻略本なのか、設定資料・未公開スケッチ満載のファンブック風攻略本なのか、その位の方向性が判ればそれで十分です。
次に数字の確認です。一体どれだけの売上になるかを把握しましょう。売上は販売部数×価格×ロイヤリティ率です。ただ、最初の企画書をもらう段階では発売部数などは決まっていないことがほとんどです。契約を結ぶ段階で最初にいっていた販売部数の半分とかになってしまったりすると問題になってしまうので、あなたの会社でOKの出る最低ラインには達しつつも、あまり風呂敷を広げない部数に留めておくように出版社とこの段階で調整してしまうと後々楽です。もし幸いにしてビッグヒットを見込める攻略本を作ることになったら少し冒険しても良いかもしれません。ここら辺はあなたのビジネスセンスです。頑張ってください。

出版社から企画書をもらったら、上司にOKをもらう作業を進めつつ、開発のディレクターのところに行って攻略本の作成に協力してもらえるか確認しましょう。大体、自分の担当しているゲームの攻略本が出ると聞いて嫌がる開発者はまずいません。ただ実際の作業で協力的かどうかはまた別です。
例えば
開発者の気質の問題
開発者にも2タイプいて、自分の仕事はゲームを作る事でそれ以外はやらないというタイプと、自分のゲームが売れてこそ仕事が完結すると考えてくれるタイプです。もちろん後者のタイプは協力的ですが、その代わり攻略本の中身にも細かいチェックが入ったりします。中には非協力的なのに攻略本の中身にはえらく厳しいタイプもいたりしますけどね。

ゲーム本体のスケジュールの問題
ゲーム本編のスケジュールがぎりぎりだったりして協力したくても協力できない場合があります。ファミコンスーファミ時代は任天堂に対するゲームのマスターロム納品締め切りが早い時期だったので、攻略本を作る頃には手が空いていることが多かったのですが、プレステ、サターン以降はCD−ROMになってしまい、攻略本が完成してもゲームが完成していないなんていうケースはざらです。当然ゲームの完成を優先させなければならないので(ゲームが発売延期になっちゃったら攻略本を出す意味が無い)こちらとしても無理なことは言えません。

開発体制の構造的な問題
ゲームの開発が外注で行われていて、その外注先の名前が表に出せないというケースもあります。どの程度外注しているのかと外注との窓口になっている開発者の手綱さばきで攻略本制作の難易度が変わってきますが、どのケースでも追加の資料提供をお願いしにくいのは共通です。

という訳で色々なケースが考えられます
ですが、少なくともディレクターと話をする時間位はもらえると思います。この段階ではディレクターのデスクに行っての立ち話レベルでも構いません。
この段階でなんらか問題がある場合、早めに作業を取りやめるか延期するかの手を打つ必要があります。良くあるケースはゲーム開発が発売予定日に間に合わないというやつとか。また、外注のゲームの場合、外注先との契約しだいではゲーム以外の商品にゲームの内容を使おうとするとすると、とんでもなく高い別料金を払わなくてはいけない場合があったりします。ビジネス的に割に合わないときは諦めたほうが得策です。攻略本のためにゲーム開発の契約を変えるというのはまずあり得ません。

攻略本を作っても大丈夫ということであれば、そしてそのゲームがどういうものか色々質問し何がそのゲームの売りとなるかを聞きましょう。この段階ではゲームの完成形はディレクターの頭の中にしかありませんので素直に聞きます。そして出来ることなら開発中のロムをもらって自分でゲームに触ってみましょう。


再びプロデューサーの仕事とは何なのか?

この時点であなたの頭の中に「こんな攻略本が作りたい!」というアイディアが湧き出ているかと思います。またゲーム本体の開発状況も判ったので、どこら辺が作業のネックになるか、どう突破すればいいか、など作戦も練り始めるのことでしょう。
妄想は大いに膨らませましょう。ただし「編集プロダクションという選択」でもお話ししたように作るのは出版社/編集プロダクションなので、100%自分の希望通りには作れませんので念のため。ここであなたが攻略本のイメージを固めておくのは、開発と出版社の暴走しがちな要望を抑える為に、この攻略本に関してあなた自身の譲れない点を明らかにするためです。

プロデューサーというのは案外権力があるもので攻略本制作においても同じです。開発者と出版社の中間と言うコウモリ的立場を最大限活用すれば、それぞれ相手側の要望と言うことで自分の都合の良いように作業の流れをコントロールして100%自分の思った通りの攻略本を作ることも可能です。あんまりプロデューサーがでしゃばってしまうと現場の士気が下がってしまいますが。とはいうものの開発者と出版社の御用聞きだけになってしまうと現場作業は混乱して本の出来は悪くなるわ、開発者と出版社の両方に恨まれるわ、という最悪の事態になります。
ですから、まず自分なりの攻略本の完成形をイメージしつつそれはそれで大切に持っておいて、そのイメージの許容範囲から外れてしまう「こうしたくないという方向」について色々な具体的なケースを考えておきましょう。
プロデューサーとは、外堀を埋めて状況を自軍に有利に導きつつ本丸を攻めるのは人に任せて落城の様子を眺めて楽しむ軍師と心得てください。

そうこうしているうちに話が固まってきますので、開発者と出版社の打ち合わせをセッティングします。すべてプロデューサー通しで顔合わせ作業をしないタイプもいますが、私は打ち合わせをするほうが好きです。大体の場合開発者と出版社が攻略本について直接やりとりをすることは無理な場合が多く、また、あまり好ましくない場合も多いので、両者間のやりとりはプロデューサー通しになりますが、一回くらいは直接会っておいたほうが何かと作業がスムーズに行くことが多いからです。

打ち合わせの前には担当編集者とそのゲームについて1,2回は話をしておきましょう。制作途中のゲームで遊んでもらう機会が作れればベストです。少なくともファミ通の先取りレビューを読めば判るようなことは知識として頭に入れておいてもらいましょう。時々何にも知らないで来ちゃう編集者さんもいたりしますが、こういう編集者さんだと開発者の不信感が大きくなりますので、なるべく事前に教育しておきましょう。そうした作業の中で担当編集者から新たな企画案が出てくるかもしれません。
一方、社内的には開発者に出版社からの企画書のコピーを渡しておいて、先方がどんな攻略本を作りたいかを説明しておきます。そこで開発者から色々と希望やら注文が出てくると思います。とりあえず希望として聞いておきましょう。
でも
「こんどのゲームではザコキャラにも力入れてるから、ザコキャラ256種類を全部見開きで紹介したいんだけど」
とか言われたら、この段階でだめだと言っておきましょう。よっぽど攻略本としての必然性があれば別ですが、500ページもザコキャラの紹介がある攻略本なんて市場性ゼロです。

ここまで下準備をしておけば打ち合わせはスムーズに行きます。出席者は出版社は編集担当者とライター、もしかするとデザイナーが来ることになり、開発からは、ディレクター、シナリオライター、グラフィック位が出席となります。全部で7、8人程度でしょうか。 あなたは打ち合わせの司会進行役ですが、十分な下ごしらえをした打ち合わせは顔合わせ&雑談で終わる事も多いので、そんなに緊張しなくても大丈夫です。それぞれが「ああ、あの人が作業してくれるんだな」と思ってくれればその後の作業は楽になります。
司会としてどの程度発言するかはその人次第ですので自分のスタイルでどうぞ。でも、取りあえずあなたの思い描く攻略本の姿の許容範囲を越えそうになったらどんどん発言していきましょう。
だってその攻略本はあなたのプロデュース作品じゃないですか!