攻略本の意義(2)

前回は、いわゆる需要の側から見た攻略本の意義でしたが、今回は供給の側から見た攻略本の意義について考えて見ます。なので会社という枠組みの中でのオトナの事情というやつを少々やります。

私が(攻略本を生業にしているとはいえ)攻略本というものに拘るのは、自分が本というメディアが好きだという事もあるのですが、以前の会社では「ゲームの派生商品で儲かるものは攻略本くらい」という状況があったからでもあります。
前の会社は外部からはどう見られていたかは判りませんが、内部的にはキャラクターを活用するのがあまり上手ではなかったので、派生商品といえばまずゲーム内容に即した攻略本ありきで、売れたゲームならあと設定資料集とサントラCD、シリーズ化して3作続いてやっとフィギュアとか、といった感じでした。全社的に「うちのゲームはまずゲーム性ありき」みたいなストイックさを尊ぶ雰囲気もあったような気がします。
実際のところ、収益的には攻略本のロイヤリティが全体の大きなパーセンテージを占めていました。

それに対して、今いる会社はパブリックイメージから行くと、もうキャラクター展開の権化みたいなイメージで「ゲーム性はどうでもいいんだよキャラが立ってりゃ。オタクから搾れるだけ搾るぜ。」みたいな感じしょうか。
まあ実際はそうステレオタイプでは無いんですけれど。ただ、キャラクターグッズなどについては自分たちが欲しいものは全部作ろう!みたいなスタンスで全社的にキャラクター好きではあるかもしれません。そしてやはり、攻略本のロイヤリティは収益の柱の一つではありますが、あくまでも「柱の一つ」ではあります。

そんな状況の変化もあってか、自分の「ロイヤリティといえば攻略本!それ以外は儲からない!」という思い込みにも変化が出てきているような気がします。攻略本の売れ行き自体にも変化が出てきているということも一因かもしれませんが。
攻略本が作れる条件を書いたときには攻略本の成立条件として3万冊が見込めるという事をお話していたのですが、最近はその数は少し減っておりまして、8,000〜10,000位が下限になってきているようです。もちろん、売れる攻略本は相変わらず売れるのですが、現状ではここら辺の数字で採算が合うよう調整する事が多いようですね。

また、ソフトメーカーとしても自社の攻略本が出版されない事で「このゲーム、攻略本が出ないくらい売れなかったんだ」というイメージを持たれないために、契約の際の最低保証部数(攻略本が売れなくても、最低この部数分のロイヤリティはお支払します、という取り決め。ミニマムギャランティとも言います。)を下げているところも多いと思います。または最初から最低保証部数を設定しないケースもあるかもしれません。
そんな形で攻略本を出しやすくして、攻略本ビジネスを維持する努力が日々行われている訳ですが、いかんせん不景気の世の中、「攻略本=もしかすると儲かるかもしれない広報活動」という図式では、そんな仕事をすることについて、会社の上司をなかなか納得させられず、申請書にもハンコを押してもらえない状況があったりするのです。

そんな中でよく使う作戦が「バイセル方式」というテクニックです。
普通、攻略本のような版権ビジネスというものは、他社に商品の製造をライセンスして売上の何パーセントかを許諾料としてもらうというローリスク・ローリターンの戦略です。バイセル方式はそんな版権ビジネスを見かけだけでもハイリターンに見せようという戦略です。
最近、出版部門を持っているソフト会社も増えましたが、そうした出版部門を持たない会社のゲームの攻略本でも発売元がその会社の名前になっている攻略本があります。こうした攻略本に使われているのが「バイセル方式」なのです。
バイセル方式の「バイセル」とは「buy=買う」「sell=売る」という意味で、ソフトメーカーが本を買って売る、という図式から出た言葉です。例えば5パーセントの許諾料をバイセル方式で得る場合の説明をします。
まず実際に(物理的に)攻略本を作ったところからソフトメーカーが本を定価の45%の値段で仕入れます。そしてソフトメーカーは攻略本を販売する出版社に対して定価の50%で売るわけです。こうして、ソフトメーカーは定価×販売冊数×5%の利益を上げるのです。
こんな図式になっているので、バイセル方式でライセンスされた攻略本の奥付には「発売元:ソフトメーカー / 販売元:出版社」と書いてあるものが多いです。

この方式にどんなメリットがあるかといいますと、例えば1,000円の攻略本を10,000冊販売する際に5%の許諾料をもらうケースで比べてみると、非常に簡略して計算した場合、

通常のロイヤリティ方式

売上 1,000×10,000×5%=500,000円
利益 1,000×10,000×5%=500,000円

バイセルのロイヤリティ方式

売上 500×10,000×=5,000,000円
利益 (500×10,000)-(450×10,000)=500,000円

となりまして利益は同じですが売上としては10倍になるので、会計上では非常に見栄えが良いわけです。
実際には、バイセル方式にするとソフトメーカー内で販売管理費が掛かってきて売上をそのまま計上できなくなるとか、出版社としては在庫を抱え込むリスクを負うので、通常のロイヤリティ方式より、ソフトメーカーに提案できる発行部数が少なくなるとか、色々な事情があってメリットデメリットがあるのですが、そこら辺の説明を詳しくやっても、攻略本の話とは著しく外れてしまうので省略します。


まあ、会社というものは限られたマンパワーを出来るだけ儲かる事業につぎ込みたいものなので、以前より儲からなくなった攻略本ビジネスとかに人を割きたくなかったりする訳ですが、現場としてはやっぱり本を作りたかったりするのでこんなカラクリを使って会社を納得させて、自分のやりたい仕事をもぎ取っていたりする訳ですね。